RPAにおける2つの「シェア」を見る
2020年3月17日

日本では、2018年ごろから急速にRPA(Robotic Process Automation)の普及が進んでいます。 2016年時点では数億円~数十億円規模だったRPA市場ですが、2018年には市場規模が数百億円と、文字通り桁違いの成長をとげています。
「RPAは「反復性が高い、定型化した業務」を人間のかわりに実行してくれるソリューションです。 RPAは便利なツールであることには間違いありませんが、自社においてRPAを導入するかどうかは「流行しているかどうか」という観点ではなく、「RPAを導入することで社内の業務を効率化・無人化できるかどうか」という観点からきちんと判断するべきでしょう。
とはいえ「どのくらいの規模の企業がどれくらいRPAを導入しているのか」「どのようなRPAツールが関心を集めているのか」といった世間の動きを知ることは重要です。 特に「なぜそのような動きになっているのか」を考えることで、自社へRPAを導入するときの一助となるでしょう。
ここではRPAにおける2つのシェア、すなわち「導入社数シェア」と「関心のシェア」を見ていきます。 現在のシェアを知り、また今後のシェアを予想する知識をつけておくことで、単純な流行に流されず冷静な判断を下せることにつながるはずです。
日本国内におけるRPAツールの導入社数シェア
2020年1月27日、マーケティングリサーチ業務を手がける株式会社MM総研は『RPA国内利用動向調査2020』を発表しました。 同社が調査の対象としたのは年商50億円以上の企業1,021社です。
この調査結果によれば、2019年11月時点におけるRPAツールの導入率は38%、年商1000億円以上の大手企業に限れば51%と、大企業ではすでに過半数がRPAを導入しているようです。
日本国内におけるRPAツールの導入社数は以下の3ツールが大きなシェアを占めているようです。
- WinActor(NTTアドバンステクノロジ)
- UiPath(UiPath)
- BizRobo!(RPAテクノロジーズ)
多少の差異はありますが、他の調査会社による調査結果も同様の結果に落ち着いています。
また、MM総研の調査結果では、複数のRPAツールを導入している企業が47%となっています。 複数のRPAツールを利用している理由としては、比較検討・テスト、互換性・使い分け、安定稼働・リスク分散などがあげられています。 2020年以降、大企業におけるRPAツールに対する姿勢は、導入するか否かという「検討」のフェーズを過ぎ、どのように活用するかという「展開」のフェーズに入ったといえるでしょう。
次に、中小企業における導入社数シェアも見てみましょう。
RPAはスケールメリットを受けやすい大企業でのみ導入が進んでいる、というイメージをお持ちのかたもいらっしゃるでしょう。ですが実際には、中小企業においてもRPAの導入は徐々に進んでいます。
2019年12月16日、IT市場専門調査会社のノークリサーチは『2019年 中堅・中小企業における「RPAツールのシェア」と「主導部門や用途の変化」』を発表しました。同社が調査の対象としたのは年商500億円未満の中堅・中小企業1,300社です。]
まず、日本国内の中小企業におけるRPAツールの導入社数シェアは、 WinActor と BizRobo! の2強状態のようです。どちらも日本を拠点にするRPAベンダーが製作したRPAツールです。 日本国内における営業力、日本人の視点に立ったツールの使いやすさといった点で、外資系のRPAベンダーが製作したRPAツールに対して優位に立っているものと考えられます。
外資系ベンダーによるRPAツールも、数%ずつではありますが中小企業におけるシェアを獲得しつつあります。 日本企業の99%は、いわゆる中小企業です。外資系のRPAベンダーも日本のRPA市場を本気で取りに来ているのでしょう。
次に、中小企業におけるRPAの導入率を見てみましょう。2019年時点においてRPAツールを導入している中小企業の割合は以下の通りです。
- 年商5億円以上~10億円未満:32.0%
- 年商10億円以上~20億円未満:33.5%
- 年商20億円以上~50億円未満:25.0%
中小企業においても、1/4から1/3程度の企業がRPAツールを導入していることがわかります。 いっぽう、2018年時点においてRPAツールを導入していた中小企業の割合は以下の通りです。
- 年商5億円以上~10億円未満:32.5%
- 年商10億円以上~20億円未満:39.0%
- 年商20億円以上~50億円未満:27.5%
年商10億円以上~20億円未満の企業、および年商20億円以上~50億円未満の企業においては、導入の割合が明らかに減少しています。 これは「RPAを導入したものの、翌年に続かなかった」企業があることを示しています。大企業と異なり、中小企業においては導入するか否かという「検討」のフェーズにあるといえるでしょう。
一般に、中小企業は大企業に比べてスケールメリットを受けづらい、という特徴があります。 大企業はその事業規模から、定型業務の数量も膨大なため、RPAを導入することによる費用対効果を大きく見こめます。 RPAツールにたずさわる専門の人員を配置できることも、RPA導入の促進にひと役かっていることでしょう。
いっぽう、中小企業ではRPAツールを導入しなければならないほど大量の定型業務が存在しない、というケースが多いようです。 中小企業においては「効果を発揮できる業務に対してピンポイントでRPAを適用する」といったような、大企業とは異なる戦略をとる必要があるでしょう。
たとえば、パッケージ型のRPAツールは大規模な自動化をいっきに実現できるかわりに高価となりがちです。中小企業においては、自動化する業務の規模や数によって料金が決まる従量課金型のRPAツールのほうが適していることが多いといえます。
Google Trends から見る「関心」のシェア
現在、どのようなRPAツールが使われているのか、という「ツールの利用シェア」を知るためには調査会社による発表を待つ必要があります。 「たったいま注目を集めているRPAツール」のシェア、つまり「関心のシェア」について知ることは困難です。 どのRPAツールが注目を集めているのかわかれば、複数のRPAツールを比較検討するときに役立つことでしょう。
Google Trendsを利用すれば、大まかではありますがGoogleの検索エンジンにおいて、「あるキーワードがどれくらい検索されているか」がわかります。検索のトレンドは「誰が何に興味を持っているか」の指標になります。検索のトレンドから「関心のシェア」を推測することができるのです。
ここでは日本におけるRPAツールの「関心のシェア」と、世界におけるRPAツールの「関心のシェア」を見ていきます。
日本におけるRPAツールの「関心のシェア」
2019年3月3日~2020年2月22日の期間を対象として、日本で多くのシェアを獲得している5つのRPAツールの名前がどのくらい検索されているのか、Google Trendsで調べました。
- WinActor(NTTアドバンステクノロジ)
- UiPath:(UiPath)
- Automation Anywhere:(Automation Anywhere)
- BizRobo!(RPAテクノロジーズ)
- Blue Prism(Blue Prism)
まず、それぞれのキーワードがどのくらい人気なのか、Google Trendsのシェアを見てみましょう。

Google Trendsの動向を見る限り、年間を通してUiPathが圧倒的な関心を集めています。 次点で関心を集めているのはWinActorのようです。日本においては、UiPathとWinActorが「関心のシェア」のほとんどを占めているといっていいでしょう。 他3つのツールはUiPathおよびWinActorに比べると「関心のシェア」では大きく遅れを取っています。
さて、2020年時点におけるRPAの「導入社数」ではWinActor、UiPath、BizRobo!が国内における大きなシェアを獲得しています。 いっぽう、検索のトレンドではUiPathが圧倒的なシェアを獲得しており、「導入のシェア」と「関心のシェア」の間には大きな違いが存在します。このことから「日本企業において、次のRPAツールとして導入が検討されているのはUiPathなのではないか」という見解を導くこともできるでしょう。 なぜUiPathなのか、という点については、次節の『世界におけるRPAツールの関心のシェア』から推測します。
さて、Google Trendsでは地域ごとのインタレスト(関心)を見ることもできます。それぞれのツールが地域ごとにどれくらい検索されているのか見てみましょう。

地域ごとの関心:WinActor

地域ごとの関心:UiPath

地域ごとの関心:BizRobo!

地域ごとの関心:Automation Anywhere

地域ごとの関心:Blue Prism
まず、どのRPAツールも首都圏を中心に検索されていることは共通しています。全国的に検索されているといえるのはWinActorとUiPathでしょう。 BizRobo!も首都圏以外で検索されています。Automation AnywhereとBlue Prismは、主に首都圏で検索されています。
以上のことから、日本では基本的に、首都圏を中心にRPAツールの導入・検討が進んでいると考えられます。全国的に検討されているのはWinActorとUiPathで、BizRobo!もこれから全国的に普及しそうな気配を見せています。
Automation AnywhereとBlue Prismは首都圏でのみ検索されていますが、これは大企業において「複数のRPAツールを導入している」企業が47%以上である、という調査結果を反映していると考えられます。 日本では大企業が首都圏に集中しているため、第二のRPAツールとしてAutomation AnywhereやBlue Prismといった、世界的な認知度の高いRPAツールが検討されているのではないでしょうか。
世界におけるRPAツールの「関心のシェア」
世界におけるRPAツールの「関心のシェア」も見てみましょう。期間やキーワードは日本と同じ条件に指定しました。

Google Trends:世界におけるRPAツールの検索トレンド
世界における検索結果を見ても、やはりUiPathが圧倒的な人気を誇ります。次点ではAutomation AnywhereとBlue Prismが僅差で競っています。 いっぽう、日本国産のRPAツールであるWinActorやBizRobo!はというと、世界的にはほとんど検索されていない、という結果になっています。
世界と日本とで「関心のシェア」が異なるのは注目に値するでしょう。一般に、日本企業では日本語化対応が万全なツールが好まれます。また、サポートに関しても、日本語による対応が万全であることが求められます。 Automation AnywhereとBlue Prismは、2020年時点では「日本語に対してやや弱い」という印象が強いようです。
以上のことから、日本においては国産のWinActorやBizRobo!が検索においても人気を集め、Automation AnywhereとBlue Prismがやや遅れを取る、という世界とは異なるトレンドの状況が生まれていると考えられます。
世界でも日本でも大きな関心を集めているUiPathについては、2017年2月にいち早くUiPathの日本法人が設立されたことや、きめ細やかな日本語化対応がなされていることなどが検索トレンドに影響しているのではないでしょうか。
もちろん、これらのトレンドはこれから大きく変化する可能性があります。 Automation Anywhereは2018年3月に、Blue Prismは2017年10月に、それぞれ日本法人を設立しています。 Blue Prismは2019年6月のアップデートから画面内容を完全に日本語化しています。Automation Anywhereも製品マニュアルに日本語版を追加しています。 両社とも日本市場へ前向きな姿勢を見せているため、現在の「日本語に対してやや弱い」という印象はすぐになくなることでしょう。
いっぽう、WinActorも多言語対応によって世界進出を図っています。これからは世界中で多くのRPAツールがシェアを争うようになるのではないでしょうか。
まとめ:RPAにおける2つの「シェア」
ここではRPAにおける2つのシェア、すなわち「導入社数シェア」と「関心のシェア」を見てきました。
日本国内においては、すでに大企業の過半数がRPAを導入しているという調査結果があります。 中小企業においては、スケールメリットを受けづらいぶん、大企業に比べると普及のスピードは鈍いようです。 大企業と中小企業では、RPAを導入するときの適切なアプローチが異なります。 RPAの導入を検討するときは、自社にとって適切なアプローチを見きわめる必要があるでしょう。
また、Google Trendsから「それぞれのツールの名前がどれくらい検索されているのか」、すなわち「関心のシェア」も示しました。 「関心のシェア」は、今後の動向を推測する手がかりになります。 日本と世界では「関心のシェア」が大きく違います。 日本では日本語化が万全なツールが好まれる傾向にあり、このことが世界と日本とで「関心のシェア」が異なる原因であると考えられます。
日本でも世界でも、RPA市場はまだまだ伸び盛りであり、それぞれのRPAベンダーが新規顧客を開拓している段階です。 いっぽう、大企業では複数のRPAツールを比較する動きが見られるなど、レッドオーシャン化の気配も見え始めています。 RPA市場は急成長しているぶん、めまぐるしく状況が変化する市場でもあります。今後も「導入社数シェア」と「関心のシェア」を注視していきたいところです。