デスクワークにも及ぶ業務自動化の波

2020年2月26日

デスクワークのRPA化イメージ

広い意味での「仕事の自動化」は、遠い昔から人類が取り組んできたことです。 たとえば穀物の粉を挽く仕事は、水車や風車といった動力源を利用することで自動化されていました。 近代に入ってからは蒸気機関、現代に入ってからは電気を利用したモーターが、生産工程における自動化を支えてきました。

そして現在、私たちは第四次情報革命の真っ只中にいます。自動化の対象は「モノ」を作って売る事業にとどまらなくなりました。 保険、金融、サービス業など、さまざまな分野における「情報の処理」が自動化されつつあります。従来は人間の知能が必要だった仕事も自動化されつつあるのです。

RPA(Robotic Process Automation / ロボティック・プロセス・オートメーション)もまた、従来は人間の知能が必要だった仕事を自動化するソリューションです。 より具体的には、従来は「人の手」がパソコンを操作することでこなしていたデスクワークの一部を、 RPA という「ソフトウェア」に交代してもらうツールやサービスです。 パソコンの普及によってデスクワークは格段に効率化が進みましたが、RPA による自動化はデスクワークにさらなる効率化をもたらします。

自動化の波は、これまで知的労働者が担ってきた仕事にも着実に押し寄せています。

パソコンの中で動く産業用ロボット

RPA でデスクワークを自動化する、といわれても、ピンとこないかもしれません。よく引き合いに出されるたとえを紹介します。

自動車の生産ラインを思い浮かべてください。産業用ロボットが正確にアームを動かし、溶接や組み立てを素早く行なっていきます。 産業用ロボットはあらかじめ設定された内容にしたがって、同じ動作を繰り返します。産業用ロボットは疲れ知らずですし、間違えることもありません。 生産ラインの大半を産業用ロボットによって自動化することで、数万点もの部品からなる自動車を正確に組み立てることができています。

RPA は、いわばパソコンの中で動く産業用ロボットです。実際、 RPA ツールを利用して「パソコンを操作する内容と手順を記録したもの」をソフトウェアロボットと呼びます。 ソフトウェアロボットはあらかじめ設定された内容にしたがって、パソコンのアプリケーションを起動し、ファイルの操作や数値の入力を行います。

ソフトウェアロボットも疲れ知らずですし、間違えることもありません。1日に数千件、同じような手続きを繰り返す事務作業があるなら、RPA のソフトウェアロボットに任せることで、いつでも正確に事務作業を実施できます。

産業用ロボットと RPA のソフトウェアロボットに共通する特徴は「同じ作業を繰り返し行う」というところです。産業用ロボットと RPA のソフトウェアロボットは、いずれも「定型化しており、かつ反復性が高い」仕事を得意とします。

逆に「定型化しておらず、反復性が低い」仕事は人間の担当です。たとえば産業用ロボットになにか問題が起こって自動車の生産ラインが停止したケースを考えてみましょう。 産業用ロボットはあらかじめ設定された内容以外の作業はできません。

したがって、生産ラインが停止した原因を人間が調査し、対応する必要があります。 材料が不足していたのなら材料を補充しなければいけませんし、産業用ロボットが故障したのならメンテナンスをしなければいけません。 多くの仕事は自動化できても、すべての仕事は自動化できません。

ソフトウェアロボットにも同じことがいえます。RPA のソフトウェアロボットは「人間がやらざるをえなかった業務」のうち、「定型化しており、かつ反復性が高い」業務を人間のかわりに実施してくれます。ですが、事務作業には例外がつきものです。普通とは違う処理が必要になる場合、ソフトウェアロボットは臨機応変に対応できません。 人間が業務経験や知識にもとづいて「よしなに」処理する必要があります。

産業用ロボットと同じように、 RPA は多くのデスクワークを置きかえることができると期待されていますが、すべてのデスクワークが RPA に置きかえられるわけではないのです。

RPA による自動化がうまくいくと、必ずといっていいほど「ならばなんでも RPA 化してしまおう」という意見が社内から出てきます。 RPA の導入・運用にたずさわる人は「すべてのデスクワークを RPA 化できるわけではない」ということを心得ておきましょう。

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RPA を利用した自動化がもたらすメリット

「RPA によるデスクワークの自動化」のイメージはつかめたでしょうか。 ここから、 RPA の導入・運用によって期待できるメリットを、社内の立場ごとに解説します。

RPA を利用した自動化による、経営者にとってのメリット

RPA によってデスクワークを自動化するメリットのひとつは、人件費を削減できることです。 RPA の運用にかかる主な費用は、ソフトウェアロボットを動かすパソコンの購入費用、 RPA のライセンス料、電気代です。いずれも固定費ですから、RPA による自動化が進めば進むほど、デスクワークに費やしていた人件費を削減できます。

なお、 RPA の導入にあたっては、対象業務を整理したり、ソフトウェアロボットを作成したりするため、人件費がかかります。 運用コストだけでなく、導入コストも含めて RPA 導入の是非を判断すべきでしょう。

RPA を利用した自動化による、管理担当者にとってのメリット

管理担当者、いわゆるマネージャー職の方々は、業務のリソース配分に日頃から頭を悩ませていることでしょう。 リソースを均等に割り振りたいにもかかわらず、その人にしかできない業務、すなわち属人化している業務があると、リソースの配分が難しくなります。

RPA の導入にあたっては、業務内容を論理的に整理し、可視化する必要があります。つまり業務の標準化、あるいは業務のマニュアル化です。これができないと、ソフトウェアロボットはうまく働いてくれません。

ソフトウェアロボットが実行する内容と手順は、人間にとってのマニュアルです。 属人化している業務をマニュアル化できれば、誰でも実施できるようになります。 RPA 導入の過程における副産物を、マネジメントに生かすことができるのです。

また、業務が整理・可視化されると、現場でどのような作業フローが発生しているのか、ボトルネックはなにか、といったことが明確になります。 管理担当者が打つべき施策をピンポイントに絞ることができるため、管理の効率化にも役立ちます。

RPA を利用した自動化による、実務担当者にとってのメリット

RPA によるデスクワークの自動化は、経営者だけでなく実務担当者にもメリットをもたらします。「定型化しており、かつ反復性が高い」業務は、多くの実務担当者にとって「退屈で面倒な」業務です。 「退屈で面倒な」業務から解放された実務担当者は、本当に注力すべき業務、いわゆるコア業務に専念できるようになります。

経理担当者の業務を考えてみましょう。お金に関わることですから、申請内容を正確に処理することはもちろん大事な業務です。 ですが、経理担当者が本当に注力すべき業務は、社内におけるお金の流れを観察し、不適切な申請がなされていないかチェックしたり、各部署へお金に関する改善提案をしたりすることでしょう。

経理に限らず、管理部門の仕事はしばしば「社内におけるサービス業である」と表現されます。 サービス業は、いかに付加価値を上げるか、が勝負のポイントです。 RPA を利用して「退屈で面倒な」業務を自動化すれば、管理部門の実務担当者は付加価値の向上に専念できるようになります。 本当に注力すべき業務、コア業務に専念できるようになると、それだけ生産性が向上するということですから、給与アップなども期待でき、仕事を続けるモチベーションにもなります。

システムソフトウェアによる自動化と RPA による自動化の違い

ITイメージ

ここまで、 RPA による自動化とはなにか、 RPA によるデスクワークの自動化がもたらすメリットはなにか、ということについて解説してきました。

「パソコンの操作を自動化する」という RPA の特徴は、技術者にとっては「複雑かつ非効率的である」ように見えます。技術に詳しいかたほど「システムソフトウェアを作ったほうが効率的だ」と考えるでしょう。

ですが、システムソフトウェアと RPA とでは、そもそも着目する対象が異なります。ここからは一歩戻って、システムソフトウェアによる自動化と RPA による自動化の違いについて解説します。

システムソフトウェアによる自動化

ここでいう「システムソフトウェアによる自動化」とは、業務用のプログラムを作成して自動化する、という意味だと考えてください。たとえば紙のやりとりを廃止して電子化する。 あるいは表計算ソフトウェアを人間が操作することで実施していた計算を、コンピュータープログラムで実施する。といったことです。

「システムソフトウェアを作って自動化してしまえば、わざわざRPAを導入する必要はない」という考えは、理想的にはそのとおりです。 技術に詳しい人ほど、そのように考えるでしょう。ですが残念ながら、それは現実的には困難な部分もあります。

まず、誰もがソフトウェアを作成できるわけではありません。ソフトウェアのプログラミングには専門的な知識が必要です。 よいソフトウェアを作成するには豊富な経験も必要です。他の業務と並行してプログラミングを覚えることは、多くの人にとって大きな負担となります。

次に、システムソフトウェアの作成には時間と費用がかかります。システムソフトウェアを開発している間も、現場は動き続けています。システムソフトウェアが完成し、稼働するまで、システムソフトウェアの恩恵は受けられません。

さらに、システムソフトウェアを現場に導入するとなると、システムソフトウェアの使いかたを実務担当者が覚える必要もあります。 多くの人は、使い慣れたツールを手放して新しいツールを使うことに抵抗を覚えます。

完成したシステムソフトウェアを「使いにくい」と感じたら、実務担当者は使い慣れたツールに戻ってしまう可能性があります。 悪くすると、システムソフトウェアは形式的に使うことにして、実際の業務では使い慣れたツールを利用する、という本末転倒な事態になりかねません。

理想的には、システムソフトウェアによって業務を自動化することが最適解です。しかし、システムソフトウェアの開発には高いハードルがあります。さらに、システムソフトウェアを作成したからといって、実務担当者がそれを効果的に使えるとは限らない、というのが現実なのです。

システムソフトウェアによる自動化

システムソフトウェアによって業務を自動化するということは「現在の業務を、同じ結果を出せる新しい業務に作り直す」ということです。 技術に詳しいかたには「業務内容のリファクタリング」と表現したほうが伝わりやすいかもしれません。

いっぽう、 RPA によって業務を自動化するということは「現在の業務担当者を、人間からソフトウェアロボットに置きかえる」ということです。 技術に詳しいかたに向けていうなら「業務担当者のリプレース」と表現すべきでしょうか。

どちらも仕事を自動化することに変わりはありませんが、システムソフトウェアと RPA とでは、着目する対象が違います。システムソフトウェアは仕事のやりかたそのものを変えます。 RPA は仕事のやりかたはそのままにして、担当者を人間からソフトウェアロボットに置きかえます。

まとめ:デスクワークを自動化する RPA

RPA は「デスクワークの自動化」を実現するソリューションです。イメージとしては「パソコンの中で動く産業用ロボット」が一番近いでしょう。 ソフトウェアロボットは休むことなく、正確に、あらかじめ設定された内容にしたがってパソコンを操作してくれます。

RPA が得意なことは「定型化しており、かつ反復性が高い業務」です。業務の手順が論理的に整理されており、1日に何度も繰り返すような業務であれば、ソフトウェアロボットが人間の代わりに仕事をこなしてくれます。

RPA を利用した自動化がもたらすメリットは、人件費の削減、属人化している作業のマニュアル化、コア業務への集中など、さまざまです。 RPA をうまく活用して業務を自動化できれば、経営者から実務担当者にいたるまで、大きなメリットを受けられます。

業務を自動化するほかのソリューションとしては、システムソフトウェアが代表的です。 RPA とシステムソフトウェアでもっとも違うところは、システムソフトウェアが「仕事のやりかたそのものを変える」のに対して、 RPA は「仕事の担当者を人間から機械に置きかえる」というところです。 それぞれ一長一短があります。使い分けることで、効率化だけでなく、よりよい働きかたを目指せるでしょう。

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