RPA導入の効果を見積もる・測定する方法

2020年3月10日

RPAの導入効果を測定している男性の手

最近話題のソリューション、RPA(Robotic Process Automation)。RPAを効果的に活用できれば、バックオフィス系の業務であれば、その多くを自動化することができるようになります。

「2020年1月現在、年商1,000億円以上の大企業においては、過半数がすでにRPAを導入しているという調査結果もあります。 また、導入した多くの企業はRPAの継続的な利用に前向きです。複数の製品を使い分けたり、適用分野をいっそう広げたりと、RPAによる業務自動化への期待は高まるばかりです。

いっぽう、RPAは費用対効果の見通しを立てづらいため、導入に及び腰となっている企業も多いようです。先述した調査では、年商50億円以上1,000億円未満の中小企業におけるRPAの導入率は25%程度と、企業規模が小さくなると急激にRPAの導入率が低くなる、という結果が出ています。

また、実際に導入したあとの効果を測定するときにも、なにを指標にしていいのかわからない、というケースもよくあります。 人件費の削減はわかりやすい指標ですが、RPA導入の効果は人件費の削減だけにとどまりません。 場合によってはRPA導入時の副産物や、RPA導入によって二次的に得られる効果のほうが実は大きかった、ということもありえます。

RPA導入の効果はさまざまです。事前に何をもってRPAの導入を成功とするのか、指標を定めておくこと。事後に予期していなかった変化があったとき、そのことにいちはやく気づける体制を作っておくことが重要です。

ここではRPA導入のまえに効果を見積もるポイントと、RPA導入のあとに効果を測定するポイントを解説します。 また、実際にRPAの導入を検討するときのポイントについてもすこし解説します。

RPA導入の効果を見積もる

RPAを導入した企業から「思っていたほど効果があがらなかった」という声があがることは少なくありません。 RPAの導入が失敗するケースに共通する原因のひとつは、費用対効果の見積もりが甘い、ということです。

RPAを導入するということは、ロボットであるとはいえ「新人を雇い、現在の仕事の方法を教え、代わりにやってもらう」ということと似ています。 その「新人」は休むことなく、教えられた手順どおりに正確な仕事をこなしてくれます。 しかしながら逆に、教えられていないことはまったくできません。経験にもとづいて判断をくだすこともできません。 このポイントに注意して費用対効果を見積もることが、まず大切なことといえます。

RPA導入の効果を見積もるためには、以下のような項目を確実に整理し、費用と効果を具体的に比較する必要があります。

  • どの業務をRPA化したいのか
  • その業務はRPAに向いているかどうか
  • RPA化によってどのくらいコストを削減できるのか
  • RPA化によって創出された時間で新たに何ができるのか
  • RPA化するために必要なコストはどの程度か

費用対効果を検討した結果、RPA以外の自動化手法が適している、という判断がくだる場合もあるでしょう。RPAの導入は目的ではなく、あくまで課題を解決するための、ひとつの手段です。場合によっては、仕事のやりかたそのものを変えてしまう、という手段もありえるでしょう。 極端なたとえですが、社内の経理業務をすべて手作業で行っているのなら、RPA化するのではなく会計システムを導入したほうが効果的です。

「思っていたほど効果があがらなかった」と感じるもうひとつの原因として、実際にはRPA化によって得られている二次的な効果を見落としている、ということもありえます。

  • 従業員のパフォーマンスはどのように変化したか
  • 従業員のモチベーションはどのように変化したか

RPA化によって定型業務から解放されたなら、従業員はより重要な業務に集中できるようになります。 見かけの人件費は変わっていないように見えても、重要な業務に集中した結果、業務の質が向上している可能性があります。 業務の質が向上したなら、これも費用対効果に含めることができます。 たとえば経理業務であれば、経理に関する各部門への提案件数や提案の質、問題のある精算の発見と対処などが「業務の質」と見なせるでしょう。

また、定型業務から解放されることで従業員のモチベーションが向上している可能性もあります。一般に、同じことの繰り返しは退屈なものです。 同じことの繰り返しに加えて注意力も必要となると、従業員の精神的な負担はさらに大きくなります。 アンケート調査や、離職率の推移といった指標を設けることで、従業員のモチベーションの変化も費用対効果に含めることができるでしょう。

RPA導入支援ツールとヒアリングを組み合わせる

RPAの導入効果を見積もる起点となるのは、まずRPA化すべき業務を洗い出すことにあります。
RPA化する業務の洗い出しは、RPA化の可能性がある業務について、実務担当者へヒアリングを行うことが一般的です。ですが、ヒアリングを受ける実務担当者は、業務と並行して長時間のヒアリングを受け、業務内容を整理する必要にせまられます。 実務担当者にとっては大きな負担となるため、特に自分の業務がRPAに置き換わることに関して、否定的であるケースもあり、RPAの導入に対して非協力的になる可能性さえあります。

また、ヒアリングによって得られた意見には実務担当者の主観が含まれます。実務担当者がRPA化したいと考える業務と、RPA化できる業務が一致するとは限りません。ヒアリングを実施する側が適切に見きわめる必要があります。 ですが、ヒアリングを実施する側は業務に精通していないことが多いため、実務担当者の意見が的確かどうか判断することが難しい、という難点もあります。

そこで、最近ではRPA導入時のヒアリングにかかるコストを削減するために、さまざまなRPA導入支援ツールも登場しています。

たとえば「プロセスマイニング」という手法を自動的に行うツールがあります。システムのイベントログを収集・分析することで、パターン化している業務のプロセスを自動的に洗い出します。

プロセスマイニングは「複数のシステム」というマクロな視点からパターン化している業務を洗い出す手法です。これに対し、パソコンの操作履歴を収集・分析することでパターン化している業務を自動的に洗い出す「タスクマイニング」という手法もあります。

プロセスマイニングにせよ、タスクマイニングにせよ、実務担当者は普段どおりにパソコンを操作するだけです。RPA化の可能性がある業務を自動的に洗い出せるため、ヒアリングの難点を大幅に解消できます。

ですが、プロセスマイニングやタスクマイニングも万能ではありません。ツールが「パターン化している」と判断した業務であっても、実際には実務担当者が複雑な判断をくだしていることがあります。 プロセスマイニングやタスクマイニングの結果をもとに実務担当者へヒアリングを行うことで、無駄なく効果的なヒアリングを実施できるでしょう。

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RPAを導入したあとに効果を測定する

チェックの文字を指さす手

RPA導入後の効果を正しく測定するポイントは、RPA導入の準備段階から測定計画を立てておく、ということです。測定の計画は、次のような順番で考えるとよいでしょう。

  • RPAを導入することで期待できる効果はなにか
  • それらの効果を客観的に測定できるデータはなにか
  • それらのデータを集めるために必要なことはなにか
  • それらのデータをどのように分析するのか

あとから「あのデータが必要だ」となっても、正確なデータを必要なだけ集めることは困難です。目的の明確化から分析手法にいたるまで、あらかじめきちんと計画を立ててデータを取らなければ、的確な分析結果を得ることはできません。

コスト面の効果を測定するなら、まずはRPA化の対象となる業務にどのくらい人件費がかかっているか正確に測定する必要があります。 また、導入・運用時に必要となるコストも正しく把握しましょう。

  • RPAツールのライセンス費
  • RPAツールの保守運用費
  • RPA化する業務の洗い出しにかかる人件費
  • RPA化が決定した業務内容の整理にかかる人件費
  • 従業員がRPAツールの使い方を習得する期間の人件費
  • ソフトウェアロボットを作成するときの人件費
  • ソフトウェアロボットをメンテナンスするときの人件費

RPA化したからといって、対象業務に関するコストがゼロになるわけではありません。単体の業務に限ってコストを考慮する場合でも、以下のようなコストが必要になります。

  • 業務内容の整理にかかる人件費
  • ソフトウェアロボットを作成するときの人件費
  • ソフトウェアロボットをメンテナンスするときの人件費

なにごとも、最初はうまくいかないものです。だからこそ、準備段階において導入効果を測定する計画も立てておく必要があるのです。 準備をしておけば、素早く状況を把握でき、スムーズに対応できます。導入後の効果を測定すると同時に、データにもとづいた対応を繰り返すことで導入後の効果をいっそう高めることができます。

実際にRPAの導入を検討するときのポイント

実際にRPAの導入を検討するときのポイントは、小さな業務から自動化する、ということです。いわゆるスモールスタートです。まずは担当者が一人で実施している、ごくシンプルな業務をテスト的にRPA化しましょう。 導入・運用のコストを把握しやすく、導入の効果もひとりぶんの人件費を測定すればいいため、分析しやすくなります。

また、RPAの本格的な導入に向けて動き出すとき、スモールスタートの客観的な効果を示すことで、各方面への説得材料にもなります。コスト面の効果は経営陣へRPA導入の効果を説明する決め手となります。 コア業務への集中やモチベーションアップの効果は、実務担当者から協力的な姿勢を引き出すための手助けとなります。

ただし、スモールスタートによって成功をおさめたときに注意したいことがあります。スモールスタートが成功すると、すべての業務をRPA化したくなる、ということです。 なんでもRPA化したくなるのは、RPA導入プロジェクトの担当者に限りません。むしろ、経営陣や管理職など、RPAツールを直接触らないステークホルダーから「なんでもRPA化」の声が上がりやすいようです。

先述したように、RPAを導入するということは「追加の新人を雇い、現在の仕事の方法を教え、代わりにやってもらう」ということです。当然ながら、RPA化が困難な業務は存在します。 具体的には、経験を積んだ実務担当者の臨機応変な判断が必要な業務は、RPAには向いていません。経験にもとづく判断は定型化することが難しいため、ソフトウェアロボットが自動的に実行することは困難です。

また、そもそもRPA以外の自動化を検討したほうがいい業務もあります。RPA導入プロジェクトの担当者は「RPA化が最適解ではない業務もある」ということを知り、関係者へ適切に説明する必要があります。

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まとめ:RPA導入の効果を見積もる・測定する

ここではRPA導入のまえに効果を見積もるポイントと、RPA導入のあとに効果を測定するポイントを解説しました。また、実際にRPAの導入を検討するときのポイントについてもすこし解説しました。

RPAを導入するということは「追加の新人を雇い、現在の仕事の方法を教え、代わりにやってもらう」ということです。 RPA導入にあたって費用対効果を見積もるときは、このポイントを念頭に置きましょう。 新人でもマニュアルさえあればこなせる業務が多いのならば、RPAの導入が効果的に働く可能性は高いと考えられます。 また、追加で人を雇うのではなく、そもそもシステム化を進めるべきである、という業務もあるでしょう。

RPA導入後の効果を正しく測定するポイントは、RPA導入の準備段階から測定計画を立てておく、ということです。効果を正しく測定するためには客観的なデータが必要です。 分析手法まで含めて計画を立てておくことで、正確な効果を測定できるようになります。状況を素早く把握できるようになるため、効果的な改善策を講じられるようにもなります。

実際にRPAの導入を検討するときは、小さな業務の自動化から始めることがポイントです。コストの見積もりを立てやすく、導入後の効果も分析しやすくなります。実験的な運用の結果を示すことで、経営陣や実務担当者に対する説得材料にもなります。

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