RPA 導入時のタスクマイニングとは?プロセスマイニングとの違いは?

2020年2月25日

2018年ごろから、日本でも RPA (Robotic Process Automation)が本格的に普及しはじめました。 ですが、普及が進むにつれて導入時や運用時の課題も浮き彫りになってきています。特に課題としてあげられるのは「なにから手をつければいいのかわからない」「期待していたほどの効果があがらない」といったことです。

「なにから手をつければいいのかわからない」という問題の主な原因は、業務の内容を論理的に整理できていない、ということです。 業務内容がブラックボックス化したままだと、どの業務を RPA 化できるのか、というメドが立ちません。

「期待していたほどの効果があがらない」という問題の主な原因は、自動化に適した業務と自動化に適していない業務の切り分けがうまくできていない、ということです。 RPA は定型化した反復業務であれば本領を発揮できますが、人間が経験や勘にもとづいて処理している業務や業務フローが変わりやすい業務には向いていません。

より端的にいってしまうと、RPA に関する多くの課題は RPA ツールそのものではなく、 RPA ツールを導入する前の準備段階に主な原因があります。とはいえ、 RPA ツールの導入にあたって、あまりに多くの時間を割いてしまっては、人件費の削減・コア業務への集中という、 RPA の導入によって得たかった本来のメリットを逃してしまうことになります。

以上のことから、最近は RPA の導入や運用をサポートするツールもさかんに提供されるようになりました。 RPA の導入・運用をサポートするツールの機能はさまざまですが、なかでもタスクマイニングとプロセスマイニングに注目が集まっています。

どちらも業務内容に関するデータを収集し、データを自動的に分析して業務内容を可視化する、という点では共通しています。ですが、タスクマイニングとプロセスマイニングとでは、可視化する対象が異なります。

ここではタスクマイニング、およびタスクマイニングとプロセスマイニングとの違いについて解説します。

RPA とは

タスクマイニングについて解説する前に、タスクとは何か、ということについて考えてみましょう。 ソフトウェアロボットにとっての「タスク」は、人間が直感的に考える「タスク」と一致するとは限らないためです。

ソフトウェアロボットにとってのタスク

ある経理担当者が「発注書を処理する」というタスクを持っているとします。 もうすこし詳しく書くと「メールの添付ファイルで送られてきた発注書の内容を、発注内容を管理している表形式のファイルに入力する」というタスクです。 人間にとってはひとつのタスクに見えますが、 RPA で作成するソフトウェアロボットにとっては複数のタスクが含まれたものになります。

このタスクは、以下のように細分化することができます。

  • メーラを起動する
  • メールに添付された発注書のファイルを閲覧する
  • 表計算ソフトウェアを起動する
  • 管理用の表形式ファイルを開く
  • 発注書の内容を行の最後尾に入力する
  • 入力内容を確認する
  • ファイルを上書き保存する

ここでは7つに分解しましたが、もっと細分化できる場合もあるでしょう。ソフトウェアロボットに業務内容を教えるときは「これ以上は細分化できない」というレベルまでタスクを分解し、順序だてる必要があります。人間にとってはひとつのタスクに見えても、ソフトウェアロボットにとっては複数のタスクがある、というケースがほとんどです。

タスクとタスクの複雑な繋がり

先述した「発注書を処理する」というタスクを単純に分解すると、7つのタスクになりました。ですが、実際の業務ではさまざまな「例外」が発生します。

発注書の内容に間違いがあれば、発注者へ差し戻す必要があるでしょう。発注書の処理を複数人で実施している場合、誰かがファイルを開いていると、他の人がファイルを編集できなくなるため、待つ必要があります。 発注書の文字や数字を手入力しているなら、入力ミスが発生していないかどうかチェックする必要もあるでしょう。

このように、多くの業務においてタスクの繋がりは1本ではなく、さまざまなタスクが複雑に枝分かれします。 RPA で業務を自動化するときは、人間が経験や勘で処理している内容をひとつずつ整理し、ソフトウェアロボットにタスクの順序と繋がりかたを覚えさせる必要があります。

タスクマイニングとは

タスクマイニングとは、個々のパソコンの操作ログを収集・分析し、業務における作業の最小単位を発見することです。タスクマイニングの実施にあたっては、データの収集から分析まで、タスクマイニングに特化したツールを利用することが一般的です。

ここまで述べてきたように、 RPA ツールを利用してソフトウェアロボットを作成するときは、 ソフトウェアロボットが処理できるようにタスクを分解したり、タスクの順序を整理したりする必要があります。

従来、タスクの分解・整理は、主にヒアリングに頼っていました。 この業務はどのようなタスクに分解できるのか、どのくらい時間がかかっているのか、どのようにタスクが繋がっているのか、といったことを実務の担当者から聞き出していたわけです。

ですが、ヒアリングは実務担当者の主観に頼るところが大きく、精度よくタスクを分解することは困難です。 さらに、ヒアリングは単純にコストがかかります。実務担当者は RPA を導入するための準備にリソースを割り振る必要がありますし、ヒアリングを実施する人にも人件費がかかります。

タスクマイニングツールを利用すれば、タスクの細分化やタスクの複雑な繋がりの整理を自動的に行ってくれます。どのようなアプリケーションが、どのくらいの時間、どのように操作されたか、というデータを自動的に集め、精度よく分析してくれます。 実務担当者はいつもどおりにパソコンを操作するだけ。ヒアリングに比べてコストがかからず、実務担当者の負担も小さくなります。

さらに、タスクマイニングツールの分析結果を利用することで、どの作業がボトルネックになっているのか数値で判断することができます。 どの作業から RPA 化すべきか、という優先度を付けるときの検討材料にもなるでしょう。

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タスクマイニングとプロセスマイニングの違い

プロセスマイニングとタスクマイニングのアプローチイメージ

RPA の導入・運用を支援するソリューションはタスクマイニングだけではありません。 プロセスマイニングというソリューションもあります。自動的にデータを集め、分析し、 RPA の導入や運用に役立てる、という点ではプロセスマイニングもタスクマイニングも似ています。 両者はどのように違うのでしょうか?

プロセスマイニングとタスクマイニングの違いを解説する前に、まずプロセスマイニングについておさらいしておきましょう。

プロセスマイニングのおさらい

プロセスマイニングとは、膨大なデータを分析し、パターン化している業務の流れを発見する作業のことです。プロセスマイニングツールは、自動的にデータを収集・分析し、業務の流れを可視化します。

基幹システムや会計システム、OS(オペレーティングシステム)といった大規模なソフトウェアは、たいてい「イベントログ」というデータを出力します。 イベントログには「いつ、だれが、なにをしたか、結果はどうだったか」といった内容が含まれています。 オペレーティングシステムのイベントログには「どのアプリケーションがいつ使われたか」といった情報も含まれます。

一般的なプロセスマイニングツールは、上記のイベントログを分析して業務の大まかな流れを洗い出します。 どのシステムがどのように操作され、その結果がどのシステムに渡されているか、といった流れの連鎖を追っていくと、業務の大まかな流れが浮かびあがってくるわけです。 パターン化している業務を RPA 化することで、大幅な効率化を見込むことができます。

プロセスマイニングとタスクマイニングは「レイヤー」が違う

タスクマイニングは分析によって「業務内容を分割した最小単位」を発見します。いっぽう、プロセスマイニングは「パターン化している業務の流れ」を発見します。言い換えると、タスクマイニングはミクロな「作業の詳細」を発見し、プロセスマイニングはマクロな「業務の流れ」を発見します。

つまり、プロセスマイニングとタスクマイニングは、分析するレイヤーが違うのです。 あくまで目安ですが、ひとつのパソコン(システム)で完結する作業はタスクマイニングの対象となり、複数のコンピュータ(システム)にまたがる業務はプロセスマイニングの対象になる、と考えてよいでしょう。

関係性のあるタスクをすべて繋ぎあわせれば、パターン化している業務の流れを発見することは可能でしょう。ですが、多くのタスクマイニングツールは複数のシステムにまたがるプロセスを追いかけることができません。 タスクマイニングツールはひとつのパソコンにおける操作を記録するためです。

反対に、多くのプロセスマイニングツールは複数のシステムにまたがるプロセスを追いかけることはできますが、個別のアプリケーションがどのように操作されているか、という詳細な作業内容までは追いかけることができません。プロセスマイニングツールはシステムログを出力しないアプリケーションを分析対象にできないためです。

このように、プロセスマイニングとタスクマイニングは分析するレイヤーが異なり、互いに補いあう関係にあります。プロセスマイニングツールとタスクマイニングツールを併用することで、より効率的な RPA の導入が期待できます。 実際に、最近ではプロセスマイニングツールを提供していたベンダーがタスクマイニングツールも提供するようになっています。

プロセスマイニングツールやタスクマイニングツールは本当に必要なのか

プロセスマイニングツール、タスクマイニングツール、いずれも利用するときにはライセンス費用がかかります。導入に足踏みしてしまうかたもいらっしゃることでしょう。 プロセスマイニングツールやタスクマイニングツールが本当に必要かどうか、判断の目安となるポイントを紹介します。

判断の目安になるのは、ツールを使わずにRPA導入における費用対効果を算出することができるか、ということです。最近では導入支援サービスが充実しているため、多くの企業は、ワンストップでサポートを行っている企業に依頼し、 導入の前段階から専任のコンサルを派遣し、課題の洗い出しや対象業務の選定を行います。
もちろん予算との兼ね合いもありますが、これで問題なくRPAの投資対効果を算出することができるのであれば、無理にツールを導入する必要はないかもしれません。 しかしながら、コンサルによるヒアリングの場合には先に挙げたように、時間がかかり網羅性にかけるというデメリットがあります。
十分なヒアリングが行われなければRPAの導入を成功させることが難しいのでこの工程は最もシビアに行う必要があります。
もし不安がある場合には、短期間で網羅的に業務を洗い出し、課題を検出することができるタスクマイニングやプロセスマイニングのツールを活用したほうが良いでしょう。もしくはこういったツールを活用できるコンサルに依頼するのもひとつの手です。
更に注意点を挙げるとすれば、RPAの導入コンサルの場合、RPAの導入をゴールにしてしまうという点です。きちんと課題と原因を洗い出した結果、必ずしもRPAの導入が解決手段ではないかもしれません。 そういった観点からもコンサルに丸投げするのではなく、自社でツールを導入し、導入企業主導で導入を進めていくことをおすすめします。

まとめ:タスクマイニングとプロセスマイニング

RPAロボットがAIで動作するイメージ

ここではタスクマイニング、およびタスクマイニングとプロセスマイニングとの違いについて解説しました。

タスクマイニングとは、パソコンの操作ログを収集・分析し、業務における「作業の最小単位」を発見することです。 タスクマイニングツールを活用すれば、 RPA ツールでソフトウェアロボットを作成するとき、設定すべき作業の内容を自動的に洗い出してくれます。 ヒアリングに比べてコストパフォーマンス良くタスクの細分化や順序の整理を実施できます。

プロセスマイニングとは、システムのイベントログを収集・分析し、「パターン化している業務の流れ」を発見することです。 パターン化している業務は RPA による大幅な効率化を見込めます。

タスクマイニングとプロセスマイニングの違いは、分析の対象です。タスクマイニングはひとつのパソコンで完了する「作業の詳細」を分析対象にしています。 いっぽう、プロセスマイニングは複数のコンピュータにまたがる「業務の流れ」を分析対象にしています。

タスクマイニングツールとプロセスマイニングツールは、補いあう関係にあり、それぞれ分析するデータも異なります。 RPA による効率化のメリットをすばやく得たいなら、 RPA の導入・運用にあたって支援ツールを活用することも視野に入れましょう。

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