企業経営やビジネスに関わっている人であれば、「SAP(エス・エー・ピー)」という名前を耳にすることも多いのではないでしょうか。SAPとはSAP社が提供しているERP製品のことで、導入すると業務の標準化やデータ処理の効率化といったメリットが期待できます。ただ、導入におけるコストや、システムを扱う人材の育成などについてもしっかりと考えておくことが重要です。
今回は、SAPの基礎知識や導入メリット・デメリットをご紹介します。また、対策が急がれるSAPの2025年問題・2027年問題や、SAP導入を成功させるコツなどについてもご説明します。
INDEX
1.SAPとは?
SAPとは、ドイツに本社を置くソフトウェア会社のSAP社が提供しているERP製品の一つです。SAPはERP製品をリリースしているソフトウェア企業の中でも歴史が長く、グローバル展開している大企業における導入実績も多いことから、ERPパッケージをリリースしているITベンダーの代表格として認識されています。
またSAPは業務サポートの範囲が広く、生産管理・販売管理・財務管理といった基幹業務から、人事・経費精算・プロジェクト管理など幅広い業務を効率化していくことが可能です。
まずは、SAPを理解するために必要なERPについての基礎知識をご紹介します。次にSAPの特徴や構成するモジュールについて解説します。
1-1.ERPとは
「SAPとはどのようなものなのか」を知るためには、まず「ERP」について理解しておく必要があります。ERPとは、「Enterprise Resource Planning」の頭文字を取った略語で、日本語では「統合基幹業務システム」や「基幹システム」とも呼ばれます。企業内の各部署で独自に管理されている「ヒト・モノ・カネ・情報」などの経営資源を一元管理するために開発されたシステムです。業務の効率化や意思決定のスピード向上といった企業全体の効率化を実現することを目的としています。現在では、製造業や流通業、サービス業などを中心に多くの企業で導入されています。
ERPは「会計管理システム」「販売管理システム」「在庫購買管理システム」「生産管理システム」「人事給与管理システム」という5つに分類されたシステムを統合して、ユーザーに提供しています。かつては大企業向けの汎用大型システムが主流でしたが、近年では中小企業でも扱いやすいクラウド型やSaaS型でのERPも提供されています。
つまりERPとは、「経営の効率化を目的として、企業の全部門の情報を一括管理し、共有・活用するシステム」ということになります。SAPはそのERP製品の一つです。
従来の企業では、部門ごとに求められる情報や管理方法が異なっていました。そのため、「会計」「人事」「生産」「物流」「販売」といった業務内容は部門ごとに独自に導入したシステムによって管理していることが一般的でした。
この方法によって部門ごとの業務効率化に関して一定の成果をあげることができましたが、企業全体で見ると効率が悪い面がありました。その中の一つとして挙げられたのが、「部門間でのデータ共有」です。
例えば、人事部の給与情報や販売部の売上情報など、企業全体で見ると各部門で管理しているデータは密接に関わり合っています。企業で行われる業務は最終的にすべて会計に集約しますが、各部門で業務を管理しているシステムが異なるため「各部門のデータを集める→集めたデータを処理できるように整理する」という手間が発生していました。
データを整理するためには、従業員による人為的な作業も必要です。そのため、大切な会計情報を間違って入力してしまう可能性が高くなってしまいます。その結果、「部門ごとには最適化できたが、企業全体で見ると効率が悪いという状態をどのように改善するか」が求められ、開発されたシステムがERPでした。
1-2.SAPの特徴
上記でご紹介した通り、一般的に「SAP」と呼ばれるのは、SAP社が提供するERP製品のことです。その他のERP製品との違いはどのような部分にあるのでしょうか。SAPの主な特徴を見ていきましょう。
グローバル企業への導入実績が豊富
SAPが持つ長い歴史と実績が評価され、ヨーロッパの企業だけでなく、グローバル企業で数多くの導入実績を持っています。そのため、全世界において信頼性があるといえます。近年では中堅・中小企業向けのERP「SAP Business One」が用意されていることも特徴の一つです。企業規模の大小にかかわらず利用されているといえます。
豊富な機能が標準で搭載
SAPには、さまざまな業種や業態のニーズに対応できる豊富な標準機能が搭載されています。世界中で幅広い業種や業務領域の企業に利用されてきたため、各国の法制度や商習慣にも対応しています。グローバルにビジネスを展開する企業の課題にも柔軟に対応しているERPといえるでしょう。また、ERPの業務や機能領域を補ったり強化したりする、個別業務アプリケーションも数多く提供しているのも特徴です。
さらに近年では異業種を含めた他社との協業を強化しており、新たな領域での事業の創出に注力。ERPを中心とした既存事業依存体質からの脱却を図っています。
多種多様なインフラ展開をサポート
ますます進んでいる企業のデジタル化やクラウド化に対しても、多種多様な選択肢が用意されています。中堅・中小企業にも利用しやすい「SAP S/4HANA Cloud」といったSaaS型ERPを用意しているほか、パブリッククラウド上での利用や基盤運用をSAP社が行う「SAP HAHA Enterprise Cloud」といったクラウド型ERPも用意されています。
1‐3.SAPの構成モジュール
SAPがサポートする業務は多岐にわたり、モジュールによって構成されています。「モジュール」とはひとまとまりの機能のことを指し、それぞれのモジュールがERP製品を構成する要素となっています。
SAPにおける代表的なモジュールは4つに大別され、担っている機能によってさらに細かいモジュールに分けられます。主なSAPの構成モジュールを確かめておきましょう。
財務会計モジュール
会計モジュールは、財務会計と管理会計を担当しています。財務会計は外部会計・制度会計を担当しており、ほかモジュールの財務データをまとめて管理するモジュールです。管理会計は内部会計を担当するものであり、業務で発生する費用の管理・調整・最適化などを行います。
ロジスティックモジュール
ロジスティックモジュールは、販売管理と在庫管理を担当しています。販売管理は、商品の物流や販売業務をサポートするモジュールです。販売データの入力を行う必要がなく、各部門への引き継ぎも自動で行ってくれます。在庫管理は販売管理と連動しているため、現状把握がしやすくなり棚卸業務を効率化できます。
人事モジュール
人事モジュールが担当している機能は、人事管理のみです。人材の採用から退職だけでなく、部署・役職変更や勤務時間も一元管理します。
その他のモジュール
その他のモジュールが担当する機能は、生産管理・プロジェクト管理・プラント保全の3つです。生産管理は生産活動にあたっての業務管理を行います。プロジェクト管理では、プロジェクト進行に必要なチェック体制や情報共有、データ集計をすることが可能です。プラント保全は製造業における生産拠点など、設備の保全保守やセキュリティ管理を行うためのモジュールとなります。
2.SAPを導入するメリット
SAPはERP導入の際に検討される製品であり、世界中で高いシェアを占めています。SAPが人気の理由は、システムとして完成度と信頼性が高く、導入することによるメリットが明確化できるためです。ここでは、SAP導入をするメリットを解説します。
2-1.業務プロセスを効率化できる
企業の中には、業務上の承認が二重三重になっていることを筆頭に、効率の悪い業務プロセスを取っているケースも見られます。SAPを導入すると、業務プロセスが世界スタンダードレベルに標準化されるため、業務効率化を図ることが可能です。
SAPは、世界の優良企業における業務プロセスを基に開発されています。そのため、SAPを導入する上では自社の業務プロセスをSAPに合わせて変化させる・改革する姿勢を持つことが必要です。
2-2.データ処理を効率的に行える
従来の部門内で完結している業務システムは、一つの部門から他部門へとデータ引き継ぎする際に時間のロスが発生します。データ入力・承認・反映・確認といった複数のステップを踏む必要があり、部門間で取得するデータに不整合が発生する可能性もありました。
SAPはデータをリアルタイムに一元管理できるため、データ処理の効率化が可能です。例えば始業時に商品在庫が100個であった時、営業部門が60個の発注を取ると、在庫データはすぐに40個と反映されます。入力情報は、データ連携により他部門がすぐ確認できる形となるため、データ不整合は発生しません。
経営者層にとっても、業務データを抽出してすぐ情報分析することができるため、経営戦略における意思決定を素早く行うことが可能となります。
2-3.作業履歴を把握できる
業務を管理する上では、「誰が・いつ・何をしたのか」を把握できなければなりません。業務プロセスに遅れや間違いが生じた場合、どのように作業を行ったのか把握することが必要であるためです。
SAPは、伝票入力のようにデータ変更を伴う作業において、作業履歴がユーザーIDと紐づけられて残ります。履歴管理に優れているため、たとえ不正なデータ入力・改ざんが行われたとしても、すぐに確認して変更内容を可視化できます。
2-4.社会的信頼性が高まる
前述した通り、SAPは全世界において使用されているシェア率の高いシステムです。そのため、製品に対する信頼性が高いこともメリットです。
また、SAPは現在グローバルスタンダードとなっている「IFRS(国際会計基準/国際財務報告基準)」にも対応しており、日本国内だけでなく海外各国と取引を行う企業にとっても安心して導入できるシステムとして認知されています。海外拠点で行われている取引データや業務データも一括管理できるため、コストを抑えてスムーズに業務を進めることにつながります。
企業が取引先から信頼を得るためには、実績に加えてスムーズな業務システムの整備が不可欠です。SAPは、情報共有不足によるトラブルの防止や、シェア率の高い製品を使用しているということで信頼性を与えてくれるため、事業展開に効果的だといえるでしょう。
3.SAPを導入するデメリット
SAPの導入に関してはさまざまなメリットがある一方で、デメリットも存在します。SAPを導入する前に確認しておきましょう。
3-1.導入に多額の費用がかかる
SAPのデメリットは、導入費用が高額となることです。情報システムを社内に置くオンプレミス版で導入する場合は、初期費用のほかに以下の料金が発生します。
- ソフトウェアのライセンス料金
- サーバ費用
- システム構築料金
また、SAPに付加機能を持たせる場合は、開発費用も含めなければなりません。一方でクラウド版のSAPは月額料金で利用できるようになっています。しかし、クラウド版であっても初期費用は必要となり、およそ1,000万円はかかると見積もらなければなりません。中小企業にとってSAPにかかるコストは高額といえます。
なお、SAPのライセンス費用は従量課金制です。SAPのユーザー数が多いほど費用が高くなるため、システム管理者を複数人置く必要がある会社は、ライセンス費用が高くなる点もネックといえます。
3-2.機能や設定が複雑で習得に時間がかかる
SAPは前述したモジュールによって機能が豊富に搭載されており、さまざまな業種に対応することができます。ですが、機能や設定が複雑なため、使いこなすまでに時間がかかるというデメリットがあります。
また、SAPは「ABAP」という独自のプログラミング言語によって構築されているため、導入・運用するためにはABAPを扱える知識を持った人材が必要です。「導入したいけど、費用を抑えたい」と考えている方は、ABAPの知識を持った人材を雇用したり、社内で育成したりといった対応が必要になるでしょう。
3-3.事前にSAPに関する知識を身に付けておく必要がある
SAPは業務効率化のために有効なシステムではありますが、ただ導入したからといってすべての業務を効率化できるわけではありません。導入後に正しくシステムを運用するためには、あらかじめSAPを正しく扱うための知識を付けておく必要があります。
そのため、プロジェクトリーダーの設置や正しく扱うためのマニュアルを整備するなど、SAPに対してある程度の理解がある人材を選定することが重要になるでしょう。
4.SAPの2025年問題、2027年問題とは?
SAPの導入に際して気をつけておきたいのがSAPの2025年問題、2027年問題です。ここでは問題の概要や対応策について解説します。
4-1.SAPの2025年問題、2027年問題の概要
「SAPの2027年問題」とは、SAP社のERPソフトウェア「SAP ERP 6.0」の標準保守(メインストリームサポート)が2027年末に期限を迎えるという問題のことです。もともと2025年末が保守サポートの期限だったため「2025年問題」と呼ばれていました。対応が間に合わない企業を考慮して保守サポート期限が2年延長されて「2027年問題」と呼ばれるようになった経緯があります。
この問題のポイントは、SAP ERP6.0を使用している世界中の導入企業が影響を受ける点です。多くの企業がどのように対応するか検討している状態となります。
4-2.SAPの2025年問題、2027年問題の対応策
SAPの推奨システムへ移行する
SAP社が提供する最新のERP「SAP S/4HANA」に移行する方法があります。同じSAP製品のため培ったノウハウを活かせることがメリットです。もちろんシステム移行は簡単な作業ではなく、必要なコストを加味しながら適切な戦略を練ることが求められます。移行に際して業務プロセスの見直し・改善を図ることもおすすめです。
他社ERPへ移行する
システムを刷新し、SAP製品以外のERPへ移行することも選択肢の一つです。ERPシステムは複数の事業者から、企業の規模や業種に合わせたものが提供されています。必要な機能や自社の抱える課題に適したシステムに移行を検討すると良いでしょう。
デメリットは、新システムの選定や導入に時間がかかり、コストもかさみやすい点です。これまで蓄積してきたSAPに関するノウハウを活かしにくくなることにも留意しましょう。
SAP ERP 6.0を継続使用する
SAP ERP 6.0を継続して活用する方法もあります。現在の保守基準料金に2%を追加すると、保守サポート期限を2030年末まで延長可能です。
この方法では期限が延長されるだけであり、2030年以降の対策が必要になります。一時的な措置としては問題ありませんが、その後の対応についてしっかりと見据えておくことが大切です。
また、継続使用を選ぶことで現状維持は可能ですが、新たな機能を利用することはできません。最新システムに切り替えた競合他社と比べると、対応が後手に回ってしまう点を考慮しましょう。
5.SAP導入を成功させるためのポイント
SAPの導入は、生産効率の改善や迅速なデータ活用といった、企業としての目的を達成するために行われます。しかし、SAPを導入しただけで業務効率化などの成果が出るわけではありません。導入されたSAPが真価を発揮するためには、現場における業務プロセスをSAPの形に合わせてシステム運用する姿勢が求められます。
SAPの導入を成功させるためには、現場の社員がシステムを使いこなせるように習熟度を上げることが必要です。導入したSAPを実際に使ってみると、操作方法をわかっていなかったり、複雑な機能を使いこなせなかったりなどのケースが起こり得ます。SAPの導入を決めた段階で、SAPの学習環境をどのように進めるか考えなければなりません。また、前述した通り、SAPはABAPという独自のプログラミング言語で構築されているため、これらの知識も日々培っていくことが必要です。
実際にSAPの操作習熟度を向上させるためには、「Dojoナビ(ドージョーナビ)」の活用がおすすめです。Dojoナビはナビゲーションソフトであり、システム上でマニュアルを開くことができます。マニュアルを作成しておけば、SAPの実画面上で起動して、正しい操作方法を確認することが可能です。ナビゲーションを表示したままシステムを操作できるため、操作方法に迷うことはありません。
Dojoナビは、SAPの実画面上に付箋メモを残すこともできます。付箋は利用者ごとに活用できる機能であり、操作上の注意点や不明点を書き残しておくことが可能です。チーム内で付箋を共有することもでき、社員間で教え合うことによる習熟度向上も期待できます。新たなシステム導入する際にハードルになる操作方法のレクチャーや運用マニュアルの整備が必要なくなるので、システム投資におけるTCOの削減につながるソリューションです。
6.SAPの導入を成功させるためにマニュアルを活用しましょう
SAPの基礎知識や導入によるメリット・デメリットなどをお伝えしました。SAPは企業の幅広い業務を効率化する画期的なシステムです。豊富なメリットを得られる一方、円滑な運用のためには知識・スキルの習得が求められます。また、2025年・2027年問題についての対策を実施することも重要です。SAPの導入を検討中の場合は、ご紹介したポイントも参考にしながら対応を進めていきましょう。
SAPの導入を成功させるためには、システム操作ナビゲーションツールを活用することもおすすめです。Dojoナビならシステム画面上でマニュアルを開いたまま操作できるため、習熟度向上に役立ちます。マニュアル作成の手間もかからず、変更・追記した内容をすぐに共有しやすいこともメリットです。SAP推進に伴うマニュアル作成を検討する際は、ぜひDojoナビをご利用ください。
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